
ウィンストン・チャーチルは政治家として、また文筆家として名声を博し、趣味の一つである絵を描くことでもよく知られた。彼は40歳の時に、絵に興味を持つようになったのだが、同時に怖さをも感じた。目の前の白いキャンバスに威圧されたのである。
後日彼は、初めて絵を描いた時のことをユーモアを交えながら語った。「私は細いブラシを持って、おずおずとブルーの絵の具を少し混ぜ、細心の注意を払いながら、豆粒ぐらいの丸を描きました。そこへ、絵を描いたことのある友人が入って来て『何をためらっているのか。』と言うと、大きいブラシを掴んでペンキを浸し、キャンバスに大きく太い線を描いたのです。その時、呪文が解けたようになり、それ以後キャンバスは怖くなくなりました。大胆に始めるというのは絵を描くために、また上達するために、非常に大切なことです」とチャーチルは話した。
チャーチルが、絵を描く場合について言ったことは、他のいろんな事柄にも当てはめて言える。大胆に始めるべきなのである。手紙を書く時一番難しいのは、たいてい、最初の一行である。スピーチをする時は、立って話し始めるのが一番難しい。
始めることの怖さから、人が多くのことをするのを先へ延ばすのは惜しいことである。恐れる気持ちを捨て去り、自信と決意をもってことにあたる方が良い。キャンバスに太く一筆を描く画家の姿は、その良い例である。