ある休みの日に、次郎は家の窓わくを塗り直すことにした。はしごにのぼってペン キを塗り始めた時、5歳になる息子がやって来て「パパ、お手伝いしようか」と聞いた。この仕事は小さい子供には難しすぎるので、次郎は「遊びに行っとい で」と言おうとしたが、「ああ、頼む。はしごを押さえてておくれ」と答えた。
少年は、はしごをつかみ、力いっぱい押さえた。しばらくすると、父は別のことを頼んだ。「すみの方を塗るのに小さいブラシがいるんだ。取って来てくれないか」次郎は自分の方が早く取りに行けたが、息子が持ってくるのを待った。
少年は、また、しっかりはしごをつかみ続けた。今度は、はしご を別の窓わくへ移すこととなった。子供がはしごを持っていると動かしにくいが、子供は手伝うと言ってきかない。
このあとにも、また、台所へ行く用事があった。窓を拭く布が必要だったり、喉が渇くと次郎は水が欲しいと言ったりした。そのたびに少年は喜んで用事をはたし、帰ってくるとはしごを押さえ る仕事を続けた。彼は自分がいなくてもはしごは絶対に大丈夫だなどとは思いもしなかった。
塗り終えると次郎ははしごから降り、手を拭いて塗れたばかりの窓を見上げてしばらく立っていた。そして「2人はかなりうまくやったね」と言った。少年は誇らしそうにほほえんで答えた。「うん、2人でやったんだね」
この日、次郎はペンキ塗り以上のことをした。彼は、息子が必要な人間であ ることを教えた。また、責任ということと、仕事がよくできた時の喜びについても教えたのである。