岡田さんが読み続けようと思えば、息子の気をまぎらわせるものを、見つけてやらなければならない。彼はかたわらにある写真入りの雑誌を取り上げ、大きい世界地図を見つけるとそれを破り取り、ハサミで切ってバラバラにした。
それを畳の上へ広げ、子供にセロテープを渡しながら、「つないで元の地図にしてごらん」と言った。息子は夕方までそれにかかりきるだろうと、また小説に戻った。
しかし、1時間も経たないうちに、子供は父親のそばへ寄ってきて言った。「できたよ」
岡田さんは、息子があんまり早く地図をつなぎ合わせたのでびっくりした。その上、セロテープが地図の上にではなく、下側に貼ってあるのを見て、もう一度驚いた。
「見えない裏側にテープを貼って、きれいにできたね」と彼は息子を褒めた。すると子供はこう答えた。「うん、テープを貼る時は裏返したの。地図の裏側に一人の人の写真があったから、その人が元の形になるようにテープをつないだんだ。そして表を向けたら、地図がちゃんとできてたんだよ」
岡田さんは言う言葉がなかった。そして考えた。"人間をつないで、世界をつないだわけか・・・"