そんな彼女のもとに、1通の手紙が大阪から送られてきたのである。5年前のあの懐かしい教室がありありと思い出された。その手紙は教え子からではなく、大阪の学校の先生からであった。
その手紙には、「私はこの5年間、良い教師になろうと一生懸命努力してきました。私はいつも先生のようになりたい、そして先生の精神をこの学校の中に生かしたいと願っています」という書き出しで、
「特にこの頃になって私の心を打ち、私の生きる指針となることばは、生徒のサイン帳に書かれていた『なくてはならない人になりなさい』なのです」と結んであった。
則子の胸には喜びがあふれた。生徒に贈ったことばが、先生にも深い感銘を与えたのだ。則子は、現在四国で医師の秘書として献身的に働いているが、彼女の精神は、遠く大阪で今も生きているのである。