泣き止んだ

Smile of the Sun - 太陽のほほえみイメージ

 ある日、私が床屋の椅子に座っていた時、若い母親が小さい男の子を連れて入ってきた。理容師の一人が子ども用の椅子を用意して、子どもをそこへ座らせた。

 ここまでは、すべてが静かに運ばれた。しかし、髪が切り始められた途端に、子どもは金切り声をあげた。母親がなだめようとしたが、どうにもならない。

 その時、理容師が腰をかがめて、子どもの耳に何かを囁いた。わめき声はだんだんおさまり、ついにはまったく静かになった。理容師は大急ぎで髪を切る。やがてきれいになった子どもは、母親と一緒に笑顔で帰って行った。店中の客はほっとした。

 私はどうしてそうなったのか好奇心をそそられ、店に出る前に、子どもに何と囁いたのかと聞いた。「髪の毛が目に入らないように、目を閉じなさいといったんですよ。子どもは、目を閉じると、長くは泣いていられないものですから・・・とその理容師は言った。

 子どもは目を閉じると長くは泣いていられないというのが、本当かどうか私は知らない。しかし、いずれにしても、この場合の理容師のやり方は心理的に効果があった。

 子どもを泣き止ませるのはなかなか難しいことだが、理容師はそれに正面からぶつからなかった。もし泣き止むようにと言うだけなら、彼のことばはあまり役に立たなかったに違いない。彼は目を閉じて、自分の仕事に協力してくれるようにと子どもに頼んだ。子どもは目を閉じて泣き止んだ。

 そのやり方は直接的ではなかったが、効果があった。人生にあるいろいろな問題も、こういうふうに扱えば良いのではないだろうか。