母の指輪

Smile of the Sun - 太陽のほほえみイメージ

 私の母はいつも左のくすり指に指輪を二つはめていた。私がまだ小さかった頃、母はそのわけを説明してくれた。

  母は、輝くダイヤがはめこんである銀の指輪を指しながら「これはね、結婚の約束をした時にお父様がくださったの」と言った。それから、石のない金の指輪を指しながら言った。「これは結婚式の時にお父様がはめてくださったのよ」。

  二つの指輪の違いが、私の心に強く焼き付いた。「なぜ、婚約指輪にはダイヤがあって、結婚指輪にはないのだろう、それに結婚指輪は金でできているのに、婚約指輪はなぜ銀でできているのだろう」と考えた。

  私は誰にも聞かなかったので正しい答えはわからなかったが、自分で答えを出した。「銀には明るい感じがあり、そしてダイヤは恋をしている若者のようにきらめいている。金は親である責任を表すようにやや地味で石がないのだ」と。

  母はこの二つの指輪をとても大切にし、指輪を傷つけるような仕事をする時は必ず指からはずしていた。また、ダイヤの婚約指輪が抜け落ちないように、結婚指輪はややきついめにし、強くはめこんでいた。

 年月が経ち、私の家族にも変化があった。三人の姉妹と弟も結婚し、私は聖職者の道を歩んだ。家には年老いた父と母だけが残り、後に母は脳梗塞で倒れ車椅子の生活となった。しかし父は、母が私たちが病気をした時、よく世話をしてくれたように、母の面倒をよくみていた。

 周りにどんな変化があろうとも、母の指にはめられたダイヤの指輪はいつもきらめき、金の指輪はしっかりとはめられていた。