ところが、みさ子さんが働くようになると、以前からの窓口係はその老人の預金を扱う必要がなくなってしまった。というのは、その老人は、毎朝みさ子さんの所に行くからである。
そのうち、みさ子さんが結婚のため銀行をやめる日が訪れた。みさ子さんのお勤め最後の日にも老人はいつものようにやってきた。そして、いつものように預金をした。ところが、みさ子さんは、老人が帰った後で小さな封筒が忘れられているのに気付いた。
すぐ追いかけたかったが、彼女は昼休みまで待ってから魚市場に出かけ、まず市場の主人に、老人について尋ねようと思った。
驚いたことに、みさ子さんの探していた人は、その市場の主人だったのである。さらに驚いたことには、封筒を忘れたのではないと老人が言ったことである。「ほんのささやかな結婚祝いですよ。あなたがいつも銀行で親切にしてくださったお礼のしるしです」と説明してくれたのである。
みさ子さんは涙ぐみ、この思いがけない結婚祝いに感謝した。彼女が封筒を開けると、2枚の真新しい1万円札が出てきたのである。