母親はしばらく考えてから、両手に砂をすくって載せた。「手を見てごらん」と言って、砂をのせたまま左手を握りしめた。砂は指の間からこぼれ落ちる。手を強く握るほど砂はたくさんこぼれる。右手は開いたままなので、砂の量に変化はない。
母親は言った。「愛情についての秘訣を全部は知らないけれど、愛情は無理強いするべきものじゃないことはわかるわ。愛はゆったりとした信頼感の中でのみ育つものなのよ。」
「私はパパの愛情をつなぎとめるために特別なことをしたことは一度もないわ。それに私は、パパを無理に自分が望むタイプの夫にしようとしたことはないわ。パパをそのまま受け入れたし、パパも私にそうしてくれたのよ。この深い理解とお互いの信頼とが、何にも増して、私たちの結婚生活がうまくいったもとだと私は思うの。」
「相手を無理に自分の思う通りにしようとすれば、握りしめられた砂のように愛情は失われ、結婚生活はダメになったかもしれないわ。」
花子の表情は前よりやわらいだ。