疲れと不安に襲われながら、青年が病院に着いた時には、もう日が暮れていた。薄暗い明かりがついた病室に入ると、看護師が病人の耳元でささやいた。「息子さんですよ」
老人は目を開けるのもやっとだった。しかし、酸素吸入用テントの向こうに海兵隊員の姿を認めると手を伸ばした。青年はそのやせた手を握りしめ、静かに愛と励ましの言葉を口にした。それから徹夜をするためにベッドのそばに腰を下ろしたのである。
長い夜だった。青年はその日朝早くからの演習で疲れていた。時々看護師が来て少し休むようにとすすめたが、彼は断り、老人の手を持って、希望を持つようにと言い続けた。
夜明け前、老人は亡くなった。病室にやってきた看護師に青年は尋ねた。「あの人は誰ですか」
看護師には驚いて「おとうさんじゃなかったのですか」と尋ねた。「いいえ」と青年は答えた。「人違いだったんですね。間違って僕に連絡したんでしょう」
「ではなぜ、ここに夜通しいらっしゃったんですか」と言う看護師の問いに、海兵隊員は答えた。「老人ははっきり目が見えず、僕を息子だと思ったようでした。あの時、老人には息子さんが必要だったのです。だから僕はずっといたのです」