またとないチャンス

Smile of the Sun - 太陽のほほえみイメージ

 汽車の中で、私の隣にすわった紳士は、タバコを吸っていた。そのタバコの煙が、私の顔の前へ流れてくることにふと気づいた彼は、すぐに謝ってタバコの火を消した。私は、煙は気にならないと言ったが、彼はやめてしまった。

 それから数日後、私は友人が入院している病院を探しながら、神戸の町を走っていた。学校帰りらしい少年と少女が歩いていたので、車を止めて道を尋ねた。二人は、坂道をまっすぐ上って、上で右に曲がるようにと教えてくれた。

 はっきりわかったと思ったのに、私は間違った道に入り込んだ。仕方なくまた大通りまで引き返した。ところが驚いたことに、さっきの少年と少女がまだ立っていた。私が間違った道へ曲がるのを見て、引き返してくるのを待っていたというのである。もう一度はっきりと正しい道を教えてくれると、笑いながら手を振って見送ってくれた。

 汽車で一緒だった紳士や、神戸で会った生徒に、もう一度会うことはないかもしれない。しかし、彼等の損得抜きの親切は、私の人生に何かを与えてくれた。

 行きずりの人との偶然の出会いは、取るに足らないことと思われがちである。自分本位の人たちは、見知らぬ人を無視し、時には失礼なことさえする。しかし、本当の親切の意味を知る人は、違った態度をとる。見知らぬ人との出会いは、報いを期待せずに善いことのできる、またとない機会だと考え、行動するのである。