自然に親しむ

今井 美沙子

今日の心の糧イメージ

 毎夕、食材の買い物に出かける途中、足を止め、見上げる小さな空間がある。

 15戸ほどのワンルームマンションの2階の一室のベランダである。マンションの周囲や、他の部屋のベランダには緑のものは一切なく殺風景である。ところが、人ひとりが立てばいっぱいというようなベランダにプランターが置かれ、緑の葉や、季節には花が見える。それを発見した時、私の心はあたたかさにみたされた。

 そうなんだ、人はどんな所でも、たとえ一輪の花でも育てたいという気持ちがあるのだと嬉しくなったのである。

 一体、どんな人が住んでいるのかと毎夕、見上げていたら、ある日、わかった。私より少し下くらいの中年の女性であった。

 ワンルームなので、若い男性や若い女性の出入りは見かけたことがあるが、中年の女性は初めてであった。そこは単身者のみのマンションなので、私はその人の老後の幸を神様に祈らずにはいられなかった。

 ずいぶん以前に五島列島の離れ小島でひとりで暮らしているおばあさんを取材したことがある。おばあさんは毎日、段々畑を耕し、野菜を植え、その手入れに余念がない働き者であった。おばあさんの暮らす家の横には菊の花を育てて祭壇やお墓に供えるのだった。

 ある夕方、段々畑に誘われ、一番高い場所から地上を見下して、私はアッと声をあげた。

 地上の菊の花は、高い所から見下ろすときれいな三重の菊の円になっていた。白、えんじ、黄色。「この島もだんだん人が少のうなってわたしん家の回りにゃ、人はおらん。じゃばってん、わたしがここで生きちょることば神さまに知らせて守ってもらいたかけんね」

 自然に親しみ小さな宇宙を作っていたのだ。

ある人の一言

遠藤 政樹

今日の心の糧イメージ

 私は現在心身共に健康で、来年、2回目の東京オリンピックを迎えようとしています。

 「~オリンピックの顔と顔、ソレ、トトント、トトント顔と顔~」の明るいメロディーが流れていた、高度成長期に開催された1回目の大会、皆様はどのように覚えておられるでしょう。

 当時中学生だった私は、習っていたピアノのレッスンが、時間をかけて練習しなければならない段階に入っていたこと、また、学校代表で、陸上の100メートル競走に参加することになり、陸上部の先生がスパイクを貸してくださってゴールすることができたことなど、その時の感動が昨日のことのように思い出されます。

 また、同時に思い出されるのは、音楽の道を歩む決断のチャンスをくれた、教育実習生として中学生に音楽を教えていた時のことです。

 日々、音楽を通して自然に中学生たちと触れ合い、喜びのうちに授業をしていました。中でも、一番一生懸命に授業を受けてくれていた2年生の女生徒からもらった手紙の言葉は、今も心に残っています。

 「先生は学校の先生にならないでください。頑張ってプロの音楽家を目指してください。すてきな歌声とピアノでした」。

 この手紙は、私を教育現場に導くだけではなく、プロの音楽家としての道をも歩むきっかけとなったのです。

 多くの人に支えられながら、また、青少年の心の成長に寄り添いながら、音楽教師として45年間、幸せな日々を過ごす事ができました。と同時に今、大学生の合唱団や教会の合唱団、学校の保護者の合唱団などの指揮をしながら、プロの音楽家としての道を歩んでいます。


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