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ある人の一言

黒岩 英臣

今日の心の糧イメージ

 これまでにもお話ししたことがあるように思うので、少し気が引けるのですが、思い切ってまたお話しすることにいたします。

 私たちは、幼年期、少年期と過ごしながら、自分は将来何をやろうかと考えるようになります。しかし、何と言ってもまだ年もいかないことなので、将来とは余りにも漠然としていて、これと思いを定められる人は、そう多くはないのではないかと思います。

 ところが、中には探している対象の方から、多分にボーッとしている本人の方へやって来るとでもいうべきめずらしいケースも、ある事はあると言わなければならないでしょう。そこで、実際に私の身におきたある出来事をお話し致します。

 当時、私は12才、中学に入りたてで、同時に、桐朋学園付属の音楽教室というところに通って、そこのオーケストラでバイオリンを学んでいました。ある日、そのオケの練習の帰り道、新宿から山手線に乗ったところ、そこにあの世界のオザワ、国際的指揮者の小澤征爾さんが乗っているではありませんか。勿論、小澤さんもまだ若く、桐朋の短大生で、我々のオケの指揮者であり、兄貴分だったのです。

 その彼が私に話しかけてくれて、こう言ったのです。「黒岩君よお、おめえ勉強して、指揮科に来ねえか」。この一言こそは、私に決定的な影響を及ぼしたのです。言うほうも言う方ですが、その気になるほうもなる方かも知れません。ですが、私は蛮勇を奮ってその気になり、実際、プロの指揮者になったのでした。

 それから何十年、人生の黄昏時にいる今、神様からの一言があり次第、妻共々、すぐにも応じたいと願っているのです。あのサムエルのように、「主よ、お話し下さい。僕は聞いております」と答えながら。(サムエル上 3・10)