ぬくもり

阿南 孝也

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ある日、私の勤める学校に、NASAの宇宙飛行士ジョン・マクブライドさんをお招きして、お話を伺う機会に恵まれました。マクブライドさんは、1984年にスペースシャトル「チャレンジャー号」のパイロットとして、8日間にわたる宇宙での任務を果たした方です。

「宇宙から見た地球はとてもきれいでした。そして平和でした」と語ってくださいました。日本人初のスペースシャトル宇宙飛行士毛利衛さんの「地球には国境がありませんでした」という言葉が思い出されます。

教皇フランシスコは、2015年に回勅「ラウダート・シ」を発表され、「私たち皆の共通の家であり、命を分かち合う姉妹である地球を大切にしましょう」と呼び掛けられました。さらに、私たちの身体そのものが地球の要素から構成されていると述べて、呼吸を与えてくれる空気、私たちを生かし憩わせてくれている水の大切さに触れておられます。

海水が蒸発して雲となり、雨や雪となって地上に降り注ぎ、川や氷河を作り海へ帰る、この水の循環が豊かな自然を作り出し、生き物を育んできました。地球を優しく包み込む大気や水、オゾン層は宇宙から容赦なく降り注ぐ放射線を寄せ付けず、気温変動を抑え、快適な環境を保ってくれました。

ところが、「今、この地球は蹂躙され嘆き苦しんでいます」と教皇様は警告されます。大気汚染や水不足は命の源を奪うことになるからです。

「人間は最悪の状態に陥る可能性もありますが、またそれを克服することも、善を選択することも、生まれ変わることもできるのです」。この教皇様からの励ましの言葉に心を開き、地球という、この家に住むすべての人々の命が大切に守られるよう努力していきたい、そう願っています。

ぬくもり

岡野 絵里子

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今日も都会には、早朝から深夜まで無数の乗り物が走り、大勢の見知らぬ他人が乗り合わせている。座席が空けば、人はそこに座るが、その時、それまで座っていた誰かの体温が座席に残っていることがある。これはどう感じられるだろうか。気持ち悪いと思い、腰かけるのに抵抗を覚えたら、その人は人間不信、人間嫌いの状態に陥っているのではないかと思う。なぜなら、人間を嫌いになると、まず人のぬくもりが嫌いになるものだからだ。

人間嫌いの人は、人間の愚かさ醜さを軽蔑しているプライドの高い人のように見える。が、その心の底には、他人への怖れや過去に傷つけられた痛みを抱えているのではないだろうか。

反対に、人のぬくもりを快いと感じる人は人間が好きで友人との交流を楽しむ。この人々にとって、ぬくもりとは自分を受け入れてくれる愛情の温度なのである。

まだ人を疑うことを知らない幼い子どもも、ぬくもりが大好きだ。抱っこされると安心して、大人に自分の身体を預けてくる。日頃は子どもに無関心な人も、そんな瞬間は、胸の内に暖かい感情が湧いてくるのではないだろうか。ぬくもりに癒されるのは、実は抱っこしている大人の方なのである。

人間関係に傷つき、疲れてしまったら、幼い子どもや本当に親しい人とぬくもりの時間を過ごしてみれば、心は休まるように思う。それは私たちの中にある「善きもの」が目に見えない姿を現して、人間は信頼するに足りる、暖かい存在なのだと思い出させてくれる時間なのだ。

人を傷つけるのは人であるが、人を癒やすのも人なのである。「善きもの」を宿す人の力を信じていたいと思う。


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