▲をクリックすると音声で聞こえます。

ぬくもり

堀 妙子

今日の心の糧イメージ

私の弟、弟の妻の父、そして弟の子という、三代のぬくもりのある話をしたいと思う。

弟は大学の造園科を卒業し、東京で修行をして実家に戻り、地元の造園会社で働き始めた。その後、縁あって大きな衣料品店の娘と結婚した。弟の妻は大胆な性格で、造園で独立することを勧めた。

弟は独立することを、妻の父親に報告に行った。仕事に一途な義父は、「名刺を作ったか?」と弟に聞いた。「まだです」と弟が答えると、その場で、店にあるワイシャツについている白い厚紙を渡し、「これを切って自分で名刺を作るように」と弟に勧めた。

弟は手書きの名刺をもって、仕事を取りに出かけた。その素朴な名刺は、お客様の心を動かし、良い仕事に恵まれた。

そんな矢先、義父が脳腫瘍になり、入退院を繰り返し、老人介護施設に入所した。

 

弟夫婦は4人の子供を授かった。

時は流れ、弟の次男は介護福祉士として、老人介護施設で働き始めた。その施設には祖父が入所していた。次男はしばらく働くと、休暇をとって1人でフランスのルルドに行った。ルルドは聖母マリアが、ベルナデッタという少女に出現した巡礼地である。ルルドの泉からあふれる水に浸ると、奇跡的に病気が治ることもある。次男はルルドで、祈りと歌の中での沐浴を体験して帰国した。

ある日、次男は祖父をお風呂に入れることになった。次男は祖父を抱いて浴槽に入れて、体を洗った。おそらく祖父は、孫にお風呂に入れてもらっていることもわからなかったかもしれない。

弟に手作りの名刺を勧めた義父。その義父を孫がお風呂に入れた話に、義母は泣いた。孫が、ルルドの聖母マリアのとくべつなぬくもりを運んできて、この家族の過去、現在、そして未来を、聖母が抱きしめてくださった。