弟は手書きの名刺をもって、仕事を取りに出かけた。その素朴な名刺は、お客様の心を動かし、良い仕事に恵まれた。
そんな矢先、義父が脳腫瘍になり、入退院を繰り返し、老人介護施設に入所した。
弟夫婦は4人の子供を授かった。
時は流れ、弟の次男は介護福祉士として、老人介護施設で働き始めた。その施設には祖父が入所していた。次男はしばらく働くと、休暇をとって1人でフランスのルルドに行った。ルルドは聖母マリアが、ベルナデッタという少女に出現した巡礼地である。ルルドの泉からあふれる水に浸ると、奇跡的に病気が治ることもある。次男はルルドで、祈りと歌の中での沐浴を体験して帰国した。
ある日、次男は祖父をお風呂に入れることになった。次男は祖父を抱いて浴槽に入れて、体を洗った。おそらく祖父は、孫にお風呂に入れてもらっていることもわからなかったかもしれない。
弟に手作りの名刺を勧めた義父。その義父を孫がお風呂に入れた話に、義母は泣いた。孫が、ルルドの聖母マリアのとくべつなぬくもりを運んできて、この家族の過去、現在、そして未来を、聖母が抱きしめてくださった。