ところが、お父さんはそのことを聞くなり、卒倒して寝込んでしまいました。心配する2人に、お父さんが急に起き上がってきてこう言ったのだそうです。「俺が死んだらお前達2人はみなしごになるじゃあないか。それは駄目だ。俺は死ぬまで頑張る」と。2人は顔を合わせて笑いました。「お父さん、わたしたちはもう40過ぎた大人ですよ。」
その後、本当にそのお父さんは頑張って、10年生きながらえました。その女性はこう続けました。「それまで父は、弟が長男なので、弟を優先してかわいがっていたと、私は小さい頃から感じてきました。だから私は父に対して冷たい感情を持っていました。でも父は、口や態度にこそ出しませんでしたが、私のことも意識し、かわいく思ってくれていたのですね。最期にお父さんが寝込んだ時、すぐに私が行って世話をしようと思えたのはあの時のことがあったからかもしれません。」と話してくださいました。
それは人と人との関わりの見えないぬくもりが、表現された時であり、人に生きる力を与える時だったのかもしれません。