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ぬくもり

松浦 信行 神父

今日の心の糧イメージ

先日、信者の女性から、亡くなられたお父さんの興味深い話を聞きました。

奥さんが亡くなられて気弱になったお父さんは、ある時ガンの疑いがあると言われ検査します。でも怖くて結果を聞きに行くことが出来ずに、その女性、すなわち娘と息子に聞きに行って欲しいと頼みました。

2人は、医者のところに出かけました。するとガンが進行していて、もう長くはない、年を越すことは出来ないと告げられたのです。それで2人は、気を落とさないように配慮しながらそのことをお父さんに告げたわけです。

ところが、お父さんはそのことを聞くなり、卒倒して寝込んでしまいました。心配する2人に、お父さんが急に起き上がってきてこう言ったのだそうです。「俺が死んだらお前達2人はみなしごになるじゃあないか。それは駄目だ。俺は死ぬまで頑張る」と。2人は顔を合わせて笑いました。「お父さん、わたしたちはもう40過ぎた大人ですよ。」

その後、本当にそのお父さんは頑張って、10年生きながらえました。その女性はこう続けました。「それまで父は、弟が長男なので、弟を優先してかわいがっていたと、私は小さい頃から感じてきました。だから私は父に対して冷たい感情を持っていました。でも父は、口や態度にこそ出しませんでしたが、私のことも意識し、かわいく思ってくれていたのですね。最期にお父さんが寝込んだ時、すぐに私が行って世話をしようと思えたのはあの時のことがあったからかもしれません。」と話してくださいました。

それは人と人との関わりの見えないぬくもりが、表現された時であり、人に生きる力を与える時だったのかもしれません。