ぬくもり

松浦 信行 神父

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先日、信者の女性から、亡くなられたお父さんの興味深い話を聞きました。

奥さんが亡くなられて気弱になったお父さんは、ある時ガンの疑いがあると言われ検査します。でも怖くて結果を聞きに行くことが出来ずに、その女性、すなわち娘と息子に聞きに行って欲しいと頼みました。

2人は、医者のところに出かけました。するとガンが進行していて、もう長くはない、年を越すことは出来ないと告げられたのです。それで2人は、気を落とさないように配慮しながらそのことをお父さんに告げたわけです。

ところが、お父さんはそのことを聞くなり、卒倒して寝込んでしまいました。心配する2人に、お父さんが急に起き上がってきてこう言ったのだそうです。「俺が死んだらお前達2人はみなしごになるじゃあないか。それは駄目だ。俺は死ぬまで頑張る」と。2人は顔を合わせて笑いました。「お父さん、わたしたちはもう40過ぎた大人ですよ。」

その後、本当にそのお父さんは頑張って、10年生きながらえました。その女性はこう続けました。「それまで父は、弟が長男なので、弟を優先してかわいがっていたと、私は小さい頃から感じてきました。だから私は父に対して冷たい感情を持っていました。でも父は、口や態度にこそ出しませんでしたが、私のことも意識し、かわいく思ってくれていたのですね。最期にお父さんが寝込んだ時、すぐに私が行って世話をしようと思えたのはあの時のことがあったからかもしれません。」と話してくださいました。

それは人と人との関わりの見えないぬくもりが、表現された時であり、人に生きる力を与える時だったのかもしれません。

ぬくもり

堀 妙子

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私の弟、弟の妻の父、そして弟の子という、三代のぬくもりのある話をしたいと思う。

弟は大学の造園科を卒業し、東京で修行をして実家に戻り、地元の造園会社で働き始めた。その後、縁あって大きな衣料品店の娘と結婚した。弟の妻は大胆な性格で、造園で独立することを勧めた。

弟は独立することを、妻の父親に報告に行った。仕事に一途な義父は、「名刺を作ったか?」と弟に聞いた。「まだです」と弟が答えると、その場で、店にあるワイシャツについている白い厚紙を渡し、「これを切って自分で名刺を作るように」と弟に勧めた。

弟は手書きの名刺をもって、仕事を取りに出かけた。その素朴な名刺は、お客様の心を動かし、良い仕事に恵まれた。

そんな矢先、義父が脳腫瘍になり、入退院を繰り返し、老人介護施設に入所した。

 

弟夫婦は4人の子供を授かった。

時は流れ、弟の次男は介護福祉士として、老人介護施設で働き始めた。その施設には祖父が入所していた。次男はしばらく働くと、休暇をとって1人でフランスのルルドに行った。ルルドは聖母マリアが、ベルナデッタという少女に出現した巡礼地である。ルルドの泉からあふれる水に浸ると、奇跡的に病気が治ることもある。次男はルルドで、祈りと歌の中での沐浴を体験して帰国した。

ある日、次男は祖父をお風呂に入れることになった。次男は祖父を抱いて浴槽に入れて、体を洗った。おそらく祖父は、孫にお風呂に入れてもらっていることもわからなかったかもしれない。

弟に手作りの名刺を勧めた義父。その義父を孫がお風呂に入れた話に、義母は泣いた。孫が、ルルドの聖母マリアのとくべつなぬくもりを運んできて、この家族の過去、現在、そして未来を、聖母が抱きしめてくださった。


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