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ぬくもり

小林 陽子

今日の心の糧イメージ

わたしが「ぬくもり」という言葉からぱっとイメージするのは、ひとの住む家とか、部屋なのです。

それもきちんと整理整頓がゆきとどいた、ピカピカに磨かれた住まいではなくて、ほっとくつろげるのは、テーブルの上に飲み残しのコーヒーカップがおきっぱなしだったりして。ついさっきまで誰かがお茶してましたっていう感じの。

ところで、わたしは山の上で暮らしているので、買い物や病院通いなどの用事で定期的に街におりなくてはなりません。そんな外出が連日続くと往復のバス代も時間も、もったいない。

「そんな時はうちにお泊りなさい!」 といってくれたのが友達のMさん。2年前にお母さまを看取ってからは1人暮らしです。

「わー嬉しい。たすかるわ」でも、彼女の負担にならないように夕食をすませてから、ローカル線に乗って彼女の家にたどり着くのは夜の7時か8時。

「散らかっていてごめんね」と彼女はいつもいうけれど、その散らかり方がほのぼのと心地よいのです。

昔の農家の造りなので、平屋で、ふた間続きのお座敷はふすまと障子を取り払うと大広間になり、回り廊下は障子とガラス戸をしめると真冬でもポカポカのサンルーム!小さなテーブルと椅子がおかれ「さあ、日向ぼっこしながらお茶しましょう」と招かれているような。

翌朝、お庭の草取りなど、わたしでもできることでお手伝いさせてもらいます。大きなミカンの木の下でむせ返るようなミカンの花の香りにつつまれながらの草取りは、じつに自然のなかでのアロマセラピーです。ヨモギやミントやドクダミなどの香りも混じっています。

早起きして汗をながしたあとの気持ちよさったら。

わたしはMさんが車で駅まで送るというのを断って、朝の光のなかの川べりを歩きます。