年の瀬になりましたが、私にとって今年最も印象に残る出来事は、この夏に韓国で開催された日韓のキリスト者文学会議に参加したことです。両国の詩人や文学者が発表し合い、豊かな学びと交流が持てました。
私には初めての海外旅行で、釜山に向かう機内の窓からは、やがて山並みの緑が見えてきました。両国間にある長い歴史が私の心を巡ったと同時に、4年前、長野県軽井沢で行われた前回の集いで温かな絆を育めたことが私の記憶に甦り、思わず涙がこぼれました。軽井沢では深夜、韓国の詩人Kさんと互いの国の歴史について深く語り合う時間が持てた想い出があります。
時は流れ、Kさんとの再会を心待ちにしていましたが、会議に欠席され残念でした。ところが彼から、「来月、日本に行くので会いましょう」とのお誘いを頂き、釜山の旅から1カ月後、都内で嬉しい再会を果たしました。
Kさんは滞在するホテルのロビーで私を見つけると大きく両腕を広げ、私たちは抱擁しました。椅子に腰を下ろすと、彼は私が持参した『尹東柱 詩集』 に目を留め、嬉しそうに手に取りました。尹東柱は第二次大戦末期の日本で若くして獄死した悲劇の詩人であり、その詩は今も日本で多くの人に愛されています。彼は尹東柱の詩について興味深く話してくれましたが、驚くべき偶然を知りました。それは私が若かった頃、長く詩の朗読会を主宰していたカフェが、かつて尹東柱が下宿していた都内の場所のすぐそばにあった、ということでした。
語らいの後、駅まで私を送ってくれたKさんと別れの握手を交わし、私は尹東柱の詩にあった、(――ああ 若さはいつまでも その場所に残っていてくれ。) という言葉を胸に、電車に乗りこんだのでした。
*2023年12月ラジオ放送分です。