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ぬくもり

植村 高雄

今日の心の糧イメージ

人間の歴史を思いめぐらしますと、私にとって、美しいなあと感じるものもあれば、何とも哀しい事件だ、と落ち込むこともあります。

私が生まれたのは9月ですが、その年の2月には2・26事件という陸軍将校の反乱事件があり、10月には関係した将校17名が悲劇の死を迎えます。こうした歴史の出来事は、ローマ時代の皇帝ネロ時代のキリスト教徒、江戸時代のキリシタンへの迫害等、沢山ありますが、かたや美しい薔薇の香りのような美しい歴史も沢山あります。

こうして人間は日常生活としては色々の種類の喜怒哀楽に生きています。厳しい現実を迎えた時、人の心を元気づけ勇気づけるのが「ぬくもり」です。

仕事で海外に出かけ思わぬ暴動事件に巻き込まれ錯乱状態の私を内部から元気にさせてくれたのは、幼い頃の母のぬくもりでした。この精神作用は非常に大きいもので、人間の神秘の世界に属するようですが、心理療法の世界では、どんな有名な理論よりも、この母の暖かい思い出を回想する方が、はるかに大きな効用をもたらします。

母のぬくもりばかりでなく、幼い頃の友達との暖かい思い出、大自然から五感と体感に与えられた爽やかな風、美しい風景の記憶がもたらす自然治癒力は素晴らしい健康を人間に齎します。この色々の種類の「ぬくもり」は、厳しい現実を生きる人々に希望、愛、知恵を気づかせ、暗いストレス、不安感や怒り、恥辱や疑惑、身体症状、鬱、錯乱さえも癒していく力があるようです。

ぬくもりを感じだしますと、心が平安になり、自然と微笑みすら湧き出し、身近な人々に好意を感じ、人間関係を温め、豊かにしていきます。

ぬくもりは日常生活ばかりでなく、長い人生での宝物です。