▲をクリックすると音声で聞こえます。

心おだやかに

松本 准平

今日の心の糧イメージ

 【心身一如(いちにょ)】。心と身体は切り離すことができない一つのもの、という意味。演出家としてとても大事にしてきた言葉だ。

 「心」を辞書で引くと、カントが提唱した考えに基づいて〈「理性・感情・意志」の働きの総体である〉と出る。役者はある人物を演じるとき、一般的に、自分の理性、あるいは感情、あるいは意志、すなわち「心」を操作することによって、その人物に近づこうとする。
 19世紀ロシアのスタニスラフスキーが切り開いた近代演技理論の体系が、アメリカを中心として発展し、今は、もはや演技における世界標準になっている。

 しかしふと思う。理性や意志ならまだわからなくもないが、果たして感情を操作することなどできるだろうか、と。

 「心おだやか」というとき、それは感情のおだやかさを指しているように聞こえる。ここで試みに、心を、すなわち感情をおだやかにしてみよう。・・・しかし、いくら足掻(あが)いてみても、感情をおだやかにするなど並大抵のことではない。(むし)ろ平安に達しようと必死になればなるほど、逆に感情は氾濫してしまうようですらある。感情ほど不確かで掴み難いものはなく、心ほど複雑なものはない。

 そんな思索を重ねていたとき、冒頭の言葉【心身一如】に出会った。心とは身体のことで、身体とは心のこと。「心」のヒントは「身体」にあるのではないか。
 そう考えれば、「心おだやか」とは「身体おだやか」なのかもれない。

 朝目覚めると、祈りの時間を持つことにしている。正座をして十字を切り、目を(つむ)る。ゆっくりと呼吸を一つ。そして、もう一つ。