

今年一番の思い出は、中学1年生の息子と初めて親子で朗読ライブの舞台に立ったことです。
特別支援学校に通う息子は、食事や排泄などに介助が必要です。親として息子とのかかわりの大半は介護で、それ以上の豊かな関係が築けていないのでは...という葛藤がありました。そのような中、妻が仕事で数日外出、息子と二人の夏休み期間に詩の朗読のイベントがありました。
〈これは息子と共に参加する絶好の機会だ〉と感じた私は、初めて息子と電車に乗って遠出をして朗読の舞台に立つことを決めました。
リュックに食事や水筒、着替えに紙パンツを入れ、いざ出発。都心の電車の旅は人波にもまれながらの小旅行。多動傾向のある息子の手を握り目的の駅に着くと夕方で、駅前は夏まつりの賑わいでした。私は目的地に向かうことに必死で、ふと気づくと息子の靴がありません。慌てて探すと、笑顔の見知らぬ男性が子供靴を抱えて追いかけてきてくれました。そんな善意に励まされ、無事に会場へ辿り着きました。
朗読の舞台に上がるまでの時間、息子の食事やトイレの世話にあくせくする私。普段、詩人の会合や催しでは見せない私の姿に仲間たちは驚いていましたが、温かなまなざしで私たち親子を見守ってくれました。息子といえば、慣れない場でも落ち着いており風格さえ感じさせます。
いよいよ初めての私と息子の朗読ライブの舞台の時間がやってきました。舞台上で私は朗読の前、息子に「君が生まれた日はパパとママの嬉し涙で始まったのだよ」と語りかけると、言葉のない息子は一瞬、私の顔を見つめました。それは私がこの13年間、待ち望んでいたものでした。強い瞳で見つめ合った瞬間を、私はずっと忘れないでしょう。
(2024年にラジオ放送したお話です)