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あの古い教会で

末盛 千枝子

今日の心の糧イメージ

 私たち家族は、長女の私が4歳だった時に、戦争がひどくなり、父の郷里の盛岡に疎開しました。そして、そこで生まれた初めての男の子がたった8ヶ月で亡くなったのです。その時、父と母は、カトリックだった伯母(父の姉)に頼んで、赤ん坊に洗礼を授けてもらい、葬式も盛岡の教会でしてもらいました。両親の嘆きはいかばかりだったかと思います。

 その後、私たちは、一家で、洗礼を受けたのです。

 その教会はとてもクラシックな感じの素敵な教会でしたが、何年か経って、盛岡大学に移築され、最近、国の有形文化財に指定されました。

 先日、思いがけないことに、その教会堂のことと、私たち家族がそこで洗礼を受けたことを話して欲しいと、盛岡大学から言っていただきました。

 移築された教会は、懐かしいことこの上もありませんでした。
 それにあの頃、フランシスコ・ザビエルが日本にキリスト教を伝えて400年になるのを記念して、ザビエルの右腕が、金のガラス張りで赤いビロードを張った美しい器に入れられて日本に運ばれ、あの聖堂にも回ってきて数日飾られていました。今でもあの不思議な光景は忘れられません。

 実は私たちの祖父は、1888年(明治21年)に16歳で洗礼を受けたとのことで、山の上の教会墓地には霊名の「アンドレア」と彫ってある祖父のお墓があります。

 若い伯父が作ったのです。そして、仏教徒だった伯父は、必ず、祖父の命日に近い日曜日に、そっとあの教会のミサに来ていました。伯父はまだ独身だったのに、貧しかった私たち家族のために、妹が生まれるまで、仕送りをしてくれたと母が話してくれました。

 祖父や伯父の人生が思われます。