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祈り合う

堀 妙子

今日の心の糧イメージ

 私が幼い頃、祖母は家から少し離れたところにある川で洗濯をしていた。私はいつも祖母の姿が見える乳母車の中で待っていた。祖母は洗濯をしている間、私にシロツメクサなどを河原から摘んで渡してくれて、初めはそれで遊んでいた。

 少し大きくなるとシロツメクサで花冠(はなかんむり)を編めるようになった。

 月日は流れ、カトリックの洗礼を受けた時に、信仰上の母となる代母と呼ばれる人から赤いロザリオをプレゼントされた。「ロザリオ」とはバラの花冠という意味であり、マリアさまの頭上におささげする祈りの花冠。

 ロザリオは数珠のように珠が連なっていて、その珠をくりながらマリアさまの取次を願って「アヴェ・マリアの祈り」を唱えるための聖なる道具だ。

 幼い日のシロツメクサの思い出とともに、ロザリオの祈りを唱えることが日々の習慣となった。

 この祈りは、「喜びの神秘」「苦しみの神秘」「栄えの神秘」「光の神秘」の四つの中からどれかを選び、それぞれ五つの黙想をする。自分自身の意向、人に頼まれた意向を願うとともに、地球上で戦争や飢餓であえぐ人々の助けを願い、宇宙万物のために祈る。

 容易ならざる旅路を、すべて心に留めて歩んだ聖母マリアの生涯をたどり、私自身の今、そして死を迎える時には、愛そのものであるイエスのもとに連れて行ってくださるようにと願うのだ。

 祖母が川で洗濯をしている時に、やがてロザリオに至る私の小さな手に与えられたシロツメクサが、いつしか赤いロザリオになった。

 ロザリオは涙の谷を歩む私自身が、聖母マリアを介して御父、御子、聖霊という三位一体の神に向い、人々ととともに祈りあうための、神秘の花冠なのだ。