▲をクリックすると音声で聞こえます。

祈り合う

片柳 弘史 神父

今日の心の糧イメージ

 能登半島で大地震が発生して半年ほど過ぎたとき、被災地を視察させてもらう機会があった。被災地支援を担当している若い神父さんが、車で案内してくれたのだ。
 途中、ある教会の幼稚園に寄ったとき、1枚のカラフルな色紙が目に飛び込んできた。たくさんの子どもたちの笑顔と「お祈りしているよ」という言葉が書かれた色紙だ。その色紙を見たとき、わたしは驚くと同時に、胸が熱くなった。その色紙は、わたしが担当している幼稚園の子どもたちが、震災の直後に、その幼稚園に送ったものだったからだ。園長先生に色紙のことを尋ねると、「この色紙を見ていると元気が出てくるので、一番目立つところにずっと飾っています」とのことだった。

 「あなたのために祈っていますよ」と言われて、「なんだ、祈るだけで何もしてくれないのか」と思う人もいるだろう。だが、「誰かが祈ってくれている」という事実が、心の大きな支えになることもある。大きな試練に直面し、「なぜ、こんな目にあわなければならないのだろう。もう生きていくのに疲れた」と思っているようなとき、誰かが「あなたのために祈っていますよ」と真心を込めて言ってくれると、その一言だけで生きる勇気が湧いてくる。そんなことがあるのだ。

 相手のためにしてあげられることは何もないが、それでも何かせずにはいられない。そんなとき、わたしたちは相手のために心から祈る。そのような祈りは、わたしたちの心からあふれ出す愛の一つの形と言ってよいだろう。祈りとなってあふれだした愛は、誰かの心に届いてその人を力づける。お互いに弱い人間同士、そのような祈りで支え合いながら生きていければと思う。