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知恵を活かす

シスター 山本 久美子

今日の心の糧イメージ

 私は、両親と祖父母、そして姉と私の6人家族の中で育ちました。3歳上の姉は、私が生まれた頃から祖母にかわいがられ、祖母は母の育児の役割を自然に分担していました。決して仲が良い理想の家族というわけではありませんでしたが、いつも誰かが家にいて、家に帰ると「お帰り」と言ってくれる大人がいる家族環境でした。

 ふり返ると、私の両親も祖父母も、特に学識があったわけではありませんが、このような家庭環境から自然に教えられたことがたくさんあったと思えます。

 祖父は寡黙な人で働き者でした。特に孫の私たちと話すことはありませんでしたが、よく私たちに自分がどこかでもらってきたお菓子を分けてくれ、喜ばせてくれました。一緒に働く母に対しても、何気ない優しさを示してくれる人でした。父は亭主関白で厳格で、家庭は父中心に動き、母はそんな父にひたすら仕えていました。

 ある時、時には祖母にもきつかった父と祖母が口論になり、祖母が祖父に愚痴をこぼしていました。その時の二人の会話は印象的で、今も人生の知恵というものを感じます。祖父は、祖母を叱るわけでもなく、祖母の気持ちにも寄り添い、「もう歳をとってきて、いずれは嫌でも若い者に世話にならんといかん。いつまでも我を張って言い合いするより、聞き流しておけばいい」と祖母をなだめていたのです。

 かつては協調性を重んじた日本社会でも、だんだんと自己主張の大切さの方が謳われるようになりました。しかし、人間関係において無駄なエネルギーを使いすぎていないかと、一度立ち止まってふり返るとき、私はこの祖父の言葉を、時折思い出します。そして、お互いのための対話を大切にしたいと思うのです。