

ローマ市内にある「十字架の聖パウロ教会」を教皇フランシスコが訪問され、公開対話を持たれたのは2018年のことである。子どもたちからも真摯な質問があり、イヌマニエル少年の質問は特に切実なものだった。
「少し前に、僕のお父さんが亡くなりました。神様を信じていなかったけれど、僕たち兄弟に洗礼を受けさせてくれて、とても善い人でした。今、お父さんは天国にいますか?」
教皇は少年を抱きしめ、彼の悲しみに寄り添って安心させようとされた。少年は大好きな父親を亡くした悲しみと不安で泣き出していたのである。
教皇は、こんな内容のことを言われた。「お父さんは善い心を持った善人でした。信者でない者が子供に洗礼を受けさせるのは簡単なことではないよ。神様は君のお父さんを誇りに思い、喜んでおられる。お父さんも神様の子どもなのです。神様はご自分の子どもを決してお見捨てにはならないよ。君もお父さんへの愛を持っている。お父さんのために祈りなさい」。
愛する人の死の受け入れ方を、子どもにも分かりやすく、教皇は教えられたのである。教皇は、まず神は揺るぎなく存在し、善い行いをした善人に応えると話し、愛する人の死を受け入れるには、その人のことを忘れず、感謝してその人のために祈ることを説かれた。
天国とは愛のある場所のことだと思われる。子どもたちを愛し、人々からも愛された父親は、亡くなる前からすでに、この地上にある天国で暮らしていたのだと言えないだろうか。
この7年後、教皇フランシスコも帰天された。一人の小さな少年の涙を、安堵のため息に変えてやり、地上にも天国を作る努力をされた方だったのだと思う。