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教皇フランシスコ

服部 剛

今日の心の糧イメージ

 2019年11月に前教皇フランシスコが来日されたことは、私たち家族にとっても、忘れ得ぬ出来事でした。東京ドームでのミサに(あずか)りたいと思い、あるカトリックの福祉団体に問い合わせると、担当のMさんから、「息子さんに障がいがおありなのですね。ぜひご家族でお越し下さい」と言っていただき、私たちの希望は叶ったのでした。

 当日、場内に入るとグラウンド内の席でMさんとお会いでき、夫婦で頭を下げ、感謝を伝えました。観客席は人々であふれ、やがてパパ様が入場し、専用車のパパモービルで場内を回り、幼子や病気の人たちを祝福していきます。大勢の人波の中、私たちは埋もれながらもパパ様に視線を向けていると、Mさんは、「この子、病気なんです。ぜひ祝福を!」と息子を指さし、叫びました。その声は大歓声に消され、パパ様に聞こえているとは思えません。それでもMさんは叫び続けました。

 すると車から降りて歩き、私たちの方へと近づかれました。肝心な時にすやすや寝ていた息子を妻が前へ差し出すと、パパ様は頭に手をふれて祝福して下さったのです。まるで、時が止まったかのようでした。席へ戻った私たちはこのような恵みが訪れたことを歓び、ダウン症の告知を受けてから歩んできた日々を思い、妻は感謝の涙を流していました。その気持ちが落ち着いた頃、ようやく目を覚ました息子は、ママの腕の中で大きな伸びをしたのでした。

 貧しい人々、苦しむ人々に限りない愛と祈りを注ぎ、平和の大切さを語り続けた教皇フランシスコ。あの日のミサで一人ひとりに語りかけられたメッセージを、今も私たち家族は思い出しています。

 ―― (よろこ)んで行きなさい、人間の考えを凌駕(りょうが)する、主の道を。 ――