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見つめるまなざし

片柳 弘史 神父

今日の心の糧イメージ

 教皇フランシスコは、2019年の訪日に当たって、「すべてのいのちを守るために」というテーマを掲げた。「それはどういうことですか」と尋ねられて、教皇は、「すべての命を守るとは、まず、じっと見つめるまなざしをもつことです」と答えた。まずは、苦しんでいる相手をじっと見ること。そこからすべてが始まるというのだ。

 この言葉を聞いたとき、わたしはマザー・テレサの「貧しい人の中にイエスを見なさい」という言葉を思い出した。「貧しい人のために働きたい」と言ってマザーのところにやって来る人の中には、相手のことをよく見もしないで、「この人は貧しい人だから助けてあげなければ」という義務感だけで働く人がいた。そんな人たちに、マザーは「まず、貧しい人をよく見なさい。その人の中に宿っている生命の神秘、イエス・キリストの存在に気づくくらい、その人をよく見なさい」と教えたのだ。

 相手をじっと見て、相手の命の尊さに気づくとき、わたしたちはその人のために何かせずにいられなくなる。そのときに生まれる、「大切なこの人を放っておけない。この人のために何かせずにはいられない」という気持ちを、キリスト教では愛と呼ぶ。キリスト教の愛は、相手をよく見ることから始まると言ってもいいだろう。マザーが人々に求めていたのは、義務感で奉仕することではなく、貧しい人を愛することだったのだ。

 教皇フランシスコも、マザー・テレサも、愛が何であるかをよく知っていた。彼らが「相手をよく見なさい」というとき、それは、「義務感ではなく、愛によって働きなさい。目の前にいる相手を愛しなさい」ということなのだ。

 まずは相手をじっと見つめること。そこからすべてを始めたい。