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正しさと優しさ

岡野 絵里子

今日の心の糧イメージ

 ネット上の人生相談に面白いものがあった。「10歳年下の女性の部下がいるのだが、この人が正論を振りかざす。責められているようでつらいが、正しいので逃げることもできない。どうしたらよいか」。

 この相談者も女性である。年下の部下に追い詰められる様子からは、優しい性格の人に思える。現在よく問題になるロジカル・ハラスメントのようだが、部下から上司へのロジハラという構図は珍しいかもしれない。

 回答は「『あなたの意見は理解できるが、押し付けられるのはつらい』と自分の感情を素直に伝えればよい。また『他にも考え方があるよ』と多角的な視点を示すことで、自分の意見を尊重するように求めることができる」であった。冷徹な言い方に聞こえるが、この回答者は、回答生成機能を持ったAIだったのである。相談者がAIの言葉に満足したかどうかはわからないが、このやり取りで、人間関係における「正しさ」は、むしろ人を追い詰める武器であることが、よく伝わってきた。

 人は繊細な心を持った生き物なのである。傷つきやすい心で他者のために「心遣い」をして、人間関係を築いている。その根底には、お互いの不完全さを労り、補い合おうという優しさがある。誰かの失敗をゆるすのは、かつて自分も失敗したからだ。

 この若い部下や生成AIもいつか優しさを持てるようになるだろう。「正しさ」という武器より、遥かに強く人を動かし結びつけるもの、それは「優しさ」なのである。