

ある年の暮れ、くじ引きで豪華賞品が当たる町内会主催のパーティに父と母が参加したが、あいにくその晩は父も母も別の用事で最後まで居られなかったので、くじ引きの券をいとこの伯父に預けパーティ会場を後にした。
その日の夜遅く、家のチャイムが激しく鳴った。ドアを開けると、やや興奮気味の伯父が立っていた。
「当たった!当たったぞ!一等が!」
横に停めた軽トラックの荷台から、ぴかぴかの大きな冷蔵庫が顔を出していた。母が預けたくじ引きの券が一等賞を取ったので、伯父がわざわざ運び、届けに来たようだった。驚いた両親が「兄さん、あなたが貰えばいいのに...」と言うと、正直者の伯父は「とんでもない!当たったのは私ではない」と即座に断り、冷蔵庫を降ろして逃げるように帰って行った。
予期せぬ賞品を前に、両親はしばらく絶句した。家の冷蔵庫はまだまだ使えるし、かといって狭い家に2台も必要ない。どうすればいいだろう...あれこれ思い悩んだ末、隣町にあるカトリックの介護施設に聞いてみることにした。
翌日、母が施設に電話をかけて、新品の冷蔵庫を寄付したいと伝えると、担当のシスターは絶叫とも言える狂喜の声を上げた。
「どうして分かったのですか?」
実は、ほんの数日前に、施設の冷蔵庫が壊れてしまっていたのだ。しかし修道会が運営しているこの施設は元々寄付金によって成り立っているので、急な出費に予算が無く困っていた。手詰まりになっていたシスターたちが連日連夜祈り続ける中で、母からの電話があったという。
伯父の正しさと両親の優しさ。
小さな思いが紡ぎ出した善意の連鎖に、心があたたまる。