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ほほえみ

片柳 弘史 神父

今日の心の糧イメージ

 わたしは昔、マザー・テレサのもとで1年ほど働いていたことがあるので、ときどき、「マザー・テレサはどんな人ですか」と尋ねられる。なかなか難しい質問だが、一番印象に残っているのは彼女の笑顔だ。

 マザーは訪ねてくる人を、一人ひとり満面の笑みで出迎える。相手が悩みや苦しみを抱えている場合は、特にそうだ。深い皺が刻まれた顔をさらにしわくちゃにして、マザーは満面の笑みで相手にほほ笑みかける。その笑顔からは、「あなたに会えてうれしい」という思いがあふれ出しているようだった。

 マザーにほほ笑みかけられると、相手はすっかりうれしくなってしまう。人生の深い悩みや苦しみの中にいる人たちは特にそうだ。「こんな自分には価値がない。生きている意味がない」と思いこんでいる人たちは、マザーの笑顔を見ているうちに、「わたしに会えたことを、こんなにも喜んでくれる人がいる。わたしの存在には価値があるのかもしれない」と思えるようになる。マザーの笑顔と出会うことによって、まさに救われたような気持ちになるのだ。

 誰かに向かってにっこりほほ笑むということは、「あなたに会えてうれしい」と言っているのに等しい。なぜうれしいかと言えば、相手が自分にとって、とても価値のある存在だからだ。心の底からのほほ笑みには、「あなたはわたしにとって大切な存在だ」というメッセージも込められている。

 イエス・キリストが伝えた救いのメッセージを福音と呼ぶが、その核心にあるのは、「誰もが神さまの子ども。限りなく価値のある、大切な存在」ということだった。マザー・テレサは、このメッセージをほほ笑みで伝える人、「ほほ笑みの聖人」だったと言っていいかもしれない。