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ほほえみ

三宮 麻由子

今日の心の糧イメージ

 マスクをしていると、子どもたちが人の表情を読めないので問題だという話が盛んに取り上げられていた時期、私はひそかに「そんなことないけどなあ」と思っていました。

 私は4歳で光とさよならしたので、人の顔は形としてしか認識できません。

 もちろん、私自身は笑顔になれるし、考えたり怒ったりといった心の変化に応じて表情はあります。が、それを意識したことはほとんどなく、せいぜい、笑顔という筋肉の感覚を憶えておき、にっこり笑って気持ちを伝えるくらいでしょう。

 そんな私が相手の状態を察するには、主に声を頼りにします。相手の発声の仕方、声の質、抑揚や使う言葉の種類などから、年齢や体調、気分、ときには大まかな職業のジャンルの見当をつけたりもします。

 そのため相手がマスクをしていてもいなくても、コミュニケーションが変わったとはまったく感じませんでした。マスクと関係なく、元々、アイコンタクトのように目で見るサインには対応できません。一方、マスクによって声がくぐもることはあっても、声の本質や抑揚が変わることはないのです。

 顔を見ることで分かる表情の情報はマスクによってなくなりますが、それは「心の翻訳」のほんの一部であり、ほかにも心の動きを示すヒントはたくさんあると思うのです。

 だから私は、マスクをしているとき、特にほほ笑みを伝えるために声やジェスチャーをはっきり見せ、「見える化」するよう気を付けるようになりました。

 同時に、マスクの下で最高の笑顔を作ることも忘れません。私のほほ笑みは、母譲りのえくぼとともに相手の心の目にはきっと見えていると思うからです。

 顔が見えるかどうかより、心からほほ笑む気持ちが大切なのかもしれません。