夜が明けて行く時間に惹きつけられる。
重い闇がゆっくりと退いて行き、新しい灰色に空が開く時。そして同じくらい、暮れて行く夕方の時間も好きである。私はきっと、光と影が交代する不思議な時間、その神秘的な現象が好きなのだと思う。
また人の中にも、姿を変えながら動いて行く時間がある。晴ればれと明けていく時があり、閉じて沈む時もある。それは人に与えられた光と影のようなもので、両方を通って私たちは成長していくらしい。
友人のAさんの会社で、窓に取り付ける防犯用のシャッターが開発された時のことである。腕力の弱い女性でも扱えるかどうか、Aさんが呼ばれて試すことになった。彼女が難なくシャッターを扱うと、開発部の人々は「Aさんでもできるなら大丈夫だ」と喜んだ。
ところが、これが彼女には、「Aさんのような頭の悪い人でもできるという意味に聞こえたのである。彼女はショックを受けた。
彼女は確かに小柄で可愛らしかったが、実はアームレスリングの選手であった。でもそれは知られていなかったのである。
彼女は、会社で一番頭の悪い社員として呼ばれて、そんな人でも理解してシャッターが扱えるかどうかと、試されたのだと思ってしまった。
彼女は落ち込んで、暗い日々を過ごした。
何ヶ月かを悩んでやっと、能力が正しく評価されるよう頑張ろうと思えるようになり、光の時間に戻って来た。明るい場所で話を聞けば、誤解も解けた。落ち込んでいたのが無駄なほどだったが、翳る時期を通ったからこそ、前向きに陽の下を歩く気持ちが育ったのである。
その後、彼女は同僚たちにアームレスリングを披露したらしい。彼女に勝てた男性はいなかったそうである。