▲をクリックすると音声で聞こえます。

光と影

片柳 弘史 神父

今日の心の糧イメージ

 小津安二郎監督の名作『東京物語』の中に、「二つの良いことないものよ」というセリフがある。子どもが自立したのはいいが、自立したと思ったら親に対する態度が冷たくなったと嘆く主人公に、友人がかけた言葉だ。良いことが起こるときには、同時に必ず悪いことも起こる。あちらもこちらも両方とも良い、すべて良いこと尽くしというのは、人生にはまずない。そのような人生の真実を的確に言い表していて、心に残る言葉だ。

 確かにそういうことが多い。たとえば、結婚して幸せな家庭を築く、愛しあう配偶者と共に子どもを育てるというのは、多くの人が望んでいる良いことだ。だが、実際に結婚し、子育てが始まると、子どもや家族のことに時間がすべて取られてしまって、自分のやりたいことができないという不満の声が上がり始める。

 しばらくして子どもが巣立つと、自分の時間がとれるという良いことは起こるが、時間があっても、生き甲斐である子どもが手元を離れてしまったために何をしていいか分からないという悪いことも起こる。人生で起こることは何事も、良いことと悪いことがセットなのだ。

 良いことが起こるときには、悪いことも起こるというと縁起でもないことのようだが、これを逆にすれば希望が生まれてくる。良いことが起こるときには、必ず悪いことも起こるということは、逆にすればつまり、悪いことが起こるときには、必ず良いことも起こるということだ。

 一人ぼっちのさびしさには、自由という良いことがセットになっている。何も持っていないということは、失う心配がないということでもある。どんなときでも、物事の良いところを見て生きていくことができれば、きっと幸せになれるだろう。