▲をクリックすると音声で聞こえます。

活かしあう

シスター 山本 ふみり

今日の心の糧イメージ

 私はある写真カードを持っています。

 10歳くらいの男の子が1才くらいの赤ん坊を帯でおぶって歯を食いしばり、裸足のまま直立しているのです。おぶっている赤ん坊は仰向けのまま頭を後ろに垂れています。彼は焼き場でその子の火葬の順番を待っているのだと思われます。涙もせず、ただそこに食いしばって立って待つ姿。何とも言い難い悲しみと苦悩を、あってはいけない現実を突き付けられて泣く事も出来なかったという事実を、この一枚から感じます。

 長崎に、1945年8月9日11時2分、原爆が投下されました。

 毎年その日には、平和祈願祭として浦上天主堂から平和公園まで松明を灯してロザリオの祈りを唱えながら歩き、御ミサも多くの人と捧げられます。

 特に原爆を知る人にとっては特別な日です。

 私は戦争を知りません。その苦しみも味わっていません。ただ、言い尽くしがたい苦悩と悲しみの暗夜が、現実として実在しているのは分かります。

 そんな私にできる事はいったい何なのでしょうか。

 平和を願いながら、何か出来ているかと問われると、私は何も出来ていないと感じます。ややもすると見て見ぬふりをする姿が自分にあるのです。ここは触れてはいけない領域のような囲いをつくってしまっている気もします。しかし、絶対に平和は必要です。

 まずは祈って自分自身の心の平和を取り戻し、そして出会う人や身近な場面から、一人一人が互いを活かしあいながら出来る事を探して、何か平和の為に出来たらと願います。

 特別な事ではなくとも、日々の生活の中で笑顔を、会釈、挨拶と優しい言葉かけを忘れないことですね。

 写真の男の子のように、歯を食いしばって現実の困難を乗り越え、共に平和の道具となれますように。 「主の平和」。