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光と影

許 書寧

今日の心の糧イメージ

 昨年の秋、第30回「芦屋国際児童画展」の審査員となるチャンスに恵まれた。

 この展覧会は、世界の食糧問題に向き合う活動の一環として1990年から開催されている。アジア、アフリカ、中南米の貧困地域で暮らす子どもたちが描いた日常の風景を通して、人々の貧困への理解と共感を深めることがその目的である。

 審査会場は、6か国から寄せられた100枚近くの児童画がずらりと並び、息をのむ光景だった。牛の世話をしている少年、台所仕事を手伝う少女、色鮮やかな民族衣装を身にまとう村人、長い首に鈴をぶら下げた愛らしい家畜のリャマ...等、どの作品もほほえましくも生き生きしていた。

 しかし、ルワンダの子どもたちの絵は違った。

 ルワンダからの児童画は、どれもあきらかに色彩がうすく、筆圧も弱かった。

 描かれた人物や風景はなぜか画用紙の一角にとどまり、余白ばかりが目立っていた。まるで何かを恐れて誰かに遠慮しているかのようだった。

 不思議に思っていた私に、主催者の方が沈んだ表情で説明してくれた。

 「戦争の影ですよ。ルワンダ内戦で傷ついた子どもたちの心がそのまま絵に表れて...」

 頭を殴られたような衝撃だった。

 戦争は色まで奪ってしまうのか...と思うと、胸が押しつぶされそうになった。

 それらのルワンダの絵の中に、洪水被災地での一コマが描かれた一枚があった。

 トラックに積まれた食料を人々がリレーしながら運び、みんなに分け合う様子を、11歳の男の子が描いたものだった。色こそはうすかったが、人物の表情はとても明るく、希望に満ち溢れていた。

 私には、暗闇で輝く小さなともしびのように見えた。

 気がつくと涙がこぼれ、心の中で平和を祈ろうと固く誓った。