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自然への感謝

岡野 絵里子

今日の心の糧イメージ

 友人の家には、可愛いいミニチュアダックスフンドが2匹いる。

 とても大事にされていて、「動物が飼われている」というより「家族として一緒に暮らしている」幸せな犬たちだ。時々遊びに行く私にとっては、2匹はぬいぐるみとあまり変わりない。触り心地もよく、かまっていて楽しいのである。

 でも、そんな気楽な気持ちが覆させられる時もある。私が触ろうとしてそばに行くと、ダックス君は大きなあくびをするのだ。小さな頭からは想像もできないほど、口が大きく開かれ、長く硬そうな舌と、鋭い歯の列が奥まで並んでいるのが見える。そして人間の生活とはかけ離れた野生というより他はない生き物の匂いを漂わせるのである。その度に、私は首の後ろがすっと冷え、どんなに可愛らしくても犬たちは愛玩用のおもちゃではなく、自然の中からやって来た生命であること、そしてその生命が時に凶暴な力さえ持つことを思い出す。

 小さな犬の中から聞こえてくる自然の声を聴き取ることができたらと思う。生き物それぞれが皆、豊かな自然から生まれ、その自然の神秘を身体の中に包んでいるのである。

 そんなことを考えていたら、友人が教えてくれた。

 ダックス君があくびをするのは、苦手なことをしなければならない時や、苦手な生き物に近い距離で接した時に、緊張や不安を和らげるためなのだそうだ。なんと彼らは私に触られるのが嫌で、じっと耐えていたのであった。ダックス君の先祖は優れた狩猟犬であり、広い野を走り、狩るのが本性なのだ。べたべたされるのは不快だったろう。鈍感で身勝手な自分をひたすら反省した。自然の声を聴き取るには、かなりの修行を私はしなければならないようである。