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人との絆

許 書寧

今日の心の糧イメージ

 カトリックの洗礼を受けてから、海外旅行に行く度に現地のミサに参加するようにしている。

 英語を使う国ならまだしも、他の言語で行われる典礼となるとほとんどの言葉は理解できないが、幸いカトリック教会のミサの様式は世界共通で、たとえ言葉が違っていてもその内容は同じであるため、行く先々の教会で豊かなお恵みを頂いてきた。

 10年程前にイスラエルで一人旅をしていた時も、ナザレの受胎告知教会で主日ミサに出席する機会に恵まれた。聖母マリアが天使のお告げをうけたといわれる場所を真ん中にして、たくさんのパイプ椅子が円形状に配置されていた。参加者が自然と祭壇を囲む一つの輪になる仕組みであった。

 その日の典礼はアラビア語で行われた。式次第のパンフレットまで周到に用意されてはいたが、私が辛うじて聞き取れる単語はアーメンとアレルヤの二つのみだった。やがて、参加者が互いに「平和の挨拶」を交わす時間になると、左の人からも右の人からも満面の笑みで握手を求められた。

 その時ハッと気付いた。
 今、目の前にいる方々はまさに「聖地献金」の対象ではないか。

 毎年復活祭直前の金曜日に、全世界のカトリック教会は聖地のために献金を集めることになっている。その献金は、聖地にある数多くの巡礼所や聖堂の維持管理やその地に住む人々のために使われていく。

 つまり、私たちは互いに知らないけれども、見えない絆でしっかりと繋がっている。相手はもはや見知らぬ他人ではなく、共に主の家に住む心を分かち合う身内なのだ。

 そう考えると無性に嬉しくなった。相手の暖かい手を握り返し、私はいっぱいの笑顔で祝福を返した。

 「主の平和!」