今年の出発は能登地方での大地震から始まった。
前途多難な予感がして、すぐに手を合わせて祈った。
私の高校1年の秋に五島の福江大火が発生し、我家は全焼した。
「泥棒は持てるだけしか持っていかんばってん、火事は根こそぎ持っていくけんね。火には充分、気ばつけんばよ」と父母は言った。
そして、少し落ち着いたころ、父母はまた言った。
「火事に遭うて、ようわかったじゃろ。物はさ、人に盗られたり、壊れたり、焼けたりしたら、あとかたもなくのうなるとよ。じゃばってん、自分の身についたものは、誰からも盗られんとよ。
じゃけん、大きゅうなって働いてお金ば儲けるようになったらさ、物よりも、自分の身につく勉強にお金ば使わんばよ」
私たちきょうだいは父母の教えに「うん、うん」とうなづいた。
やがて、私は大阪で働きはじめ、勤めの合い間に作家修行をして、30歳の時にノンフィクション作家として出発した。
あれから47年。
80冊ほどの本を出版していただいた。
私のこれまでを振り返ると、もったいない気持ちでいっぱいになる。
どんなにかこれまで出会った人たちに助けられ大切にされたかと思うと、手を合わせて感謝しないではいられない。
私は何かにつけてもすぐに手を合わせる。
感謝の時、お願いの時・・・・・。
夕方のスーパーで、惣菜物に半額のシールを貼っていただいた時も、思わず手を合わせる。
人に盗られないもの、大切なものは、私にとっては手を合わせることである。