私は絵を描く事を生涯の仕事として人生を過ごしてきました。その中でいくつか大切な事があります。恩師からの教えを守り、同時に生徒たちにも伝言と言って学ばせています。
絵画と一口に言ってもまず日本画と西洋画の違いがあります。
私は子供の頃からお絵描きが大好きだったので、「何事も最初が肝心」という祖母の考えで、6歳からいきなり、当時美術大学の教授で、大人しか教えない画伯と呼ばれる先生のアトリエに通うことになりました。
何を習うでもなく先生が制作なさる後姿を眺めアトリエの棚にある道具や石膏像が面白く勝手に写生をしたり、空想の風景などを画用紙いっぱいに好きな色使いで描いていました。
数年後のある日「おばあちゃんに油絵のセットを買ってもらいなさい」と先生に言われ、木箱に入った油絵の道具を揃えてもらいました。
先生は道具の使い方を説明してくださり「絵の具の食いつきが大切」とおっしゃってキャンバスに色を塗って乾かし、その上にまた塗る繰り返しで後は好き勝手に描きました。
中学生になり書道に興味を持った私は、和紙に吸い込む墨の濃淡の美しさから水墨画にも心惹かれ日本画も試しました。両方体験して絵画そのものの歴史や手法の進化に興味が及び、大学では美学美術史を学び、学芸員資格と教員資格を取得し、卒業後は講師となりましたが恩師の「子供にこそ本物体験が必要」との言葉に鑑賞教育と実技の基礎を大切にした美術教室を開設しました。
恩師は十か条の教えを残しましたが、祖母同様「最初が大切」という考え方が根底にありました。
第一印象の感動が大切、初めの一歩は勇気、丁寧な下地作り、自分を信じ大胆に、制作手順も人生も共通しています。