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安らぎ

三宮 麻由子

今日の心の糧イメージ

 ここ数年、スモールトークという言葉にしばしば出会うようになりました。挨拶や、誰かとのちょっとした会話がスモールトークです。マスク越しの会話や在宅勤務といった環境の中で、人と何気ない一言を交わすことが、日々の暮らしを大変豊かにしているとあらためて分かり、注目されたのです。

 昨今は出勤が普通になった会社も多く、様々な場面でスモールトークがだいぶ戻ってきた気がします。たとえば、エレベーターに乗り合わせた同じマンションの人と、自然に会話する雰囲気が戻ってきたり、ブティックなどに入ると店員さんが積極的に声をかけてきたりといった具合です。

 私は毎週食材配達のサービスを受けているのですが、配達員さんに野菜などの状態を確認しながら品目を復唱していただいたり、ミールキットの調理法や食品の賞味期限を読み上げていただいたりといった会話とともに、スモールトークが楽しみです。これもサービスの一環との認識で、配達員さんも上手にちょっとした情報を教えてくださったり、ときには好きな音楽の話が出たりもします。お引止めしないように短く効果的な会話を工夫するのも楽しみの一つです。

 文字通り喧騒から逃れることは安らぎですが、こうしたスモールトークを通していつもとちょっと違った世界に心を向けるのも安らぎかもしれません。日常という一種の喧騒から解放されるからです。

 自分から声を出すのにはちょっぴり勇気が要りますが、相手の心を開く一言が言えて素敵な時間を共有できると、思わぬところで心がふっと軽くなったりします。安らぎはいただくだけでなく、私たちのほうから差し上げることもできるのです。