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扉を開ける

岡野 絵里子

今日の心の糧イメージ

 人の住んでいる家、居室にはその人らしさが表れる。可愛いぬいぐるみが並ぶ乙女な部屋、趣味の道具があふれる楽しげな部屋・・部屋はその人の心そのものなのだ。心が病んでしまうと、部屋も荒れていく。

 以前、ネットの社会番組でゴミ屋敷のいろいろな実態と、専門に片付ける清掃業者の仕事を見たことがあった。

 或る賃貸マンションでは、一人暮らしの住人が失踪してしまい、家賃も滞納したまま部屋が残された。それで清掃会社が呼ばれて片付けることになったのである。それは大変な仕事だったようだ。そのマンションは、玄関扉が住居の中へと内開きになっているのだが、まずこの扉が開かなかったのである。家中に人間の肩の高さまでゴミが堆積していて、このゴミの層を押し返し中に入る隙間を作るのに、作業員たちは苦労していた。

 私ははっとした。内側に何かがぎっしり詰まっていると、扉は開かないのである。扉が開くのは、内側に充分な空間があってこそなのだ。

 私たちの心の部屋も、負の感情でできたゴミが詰まり、扉が開かなくなってはいないだろうか。不平不満、恨みつらみのゴミを積み上げて、自分自身が潰れそうになっていないだろうか。

 ゴミは捨てたいものだ。とうの昔に食べ終わったお弁当の空き箱を積み上げて、不味かった嫌だったといつまでも眺めているのは愚かなことだと気づきたい。使い道のない空き箱を捨ててみれば、驚くほど部屋は明るく広くなるだろう。

 扉を開けよう。扉は新しい望みを迎え入れてくれる。こだわりを手放して心も開けるといいと思う。風が通るだろう。幸福もその後から来てくれるかもしれない。