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扉を開ける

許 書寧

今日の心の糧イメージ

 母と父方の祖母は、とても仲が良かった。

 母はテキパキと何事もこなす人で、会社勤めをしていた頃は仕事と子育てを両立しながら、嫁ぎ先と実の両親の面倒をよく見ていた。毎日大変だったはずなのに、母は実に楽しく過ごしていた。よく働き、よく笑い、底抜け明るかった。

 一方、祖母は生来おおらかな人で、声を荒らげることは一度もなかった。常に悠然としていて、そばにいると時間がゆっくり流れるような錯覚さえ覚えた。

 性格がまるで正反対な二人であったが、互いに心の奥底から打ち解けていた。実の親子以上に。

 祖母はよく井戸端会議で町の話題を仕入れていた。なかでも、「どこそこの嫁姑の間でまたバトルが勃発した」とか、「どこそこの姑がイケズで嫁いびりばかりしている」とか、「どこそこの嫁が姑のご飯にいたずらをした」とか......。

 この類の噂話を耳にすると、きまって祖母は嘆いていた。

 「自分の娘はいつかよそに嫁いでしまうけど、嫁は将来のうちの子孫たちの先祖になるものじゃ。娘のように嫁も可愛がらずにいられようか?」

 また祖母は友人を家に招いては「見学会」を開くのが好きだった。よほど自慢したかったのだろう、友人に母の寝室を誇らしげに案内した。

 「見てごらん、うちの嫁はドアに鍵をかけたことがないのよ」

 実際、母の部屋はいつでも開けっ放しだった。明朗快活な彼女にとって、扉というのは開けておくためであって、閉めるものではなかった。

 扉を開けることは、心を開けることに通じるかも知れない。

 互いに心を許し合う母と祖母のいる家は、いつも風通しが良くて、平和そのものだった。

 そんな二人の背中を見て育ってきた私も、広く心の扉を開けておきたい。