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輝く

服部 剛

今日の心の糧イメージ

 今年、私は唄歌いの詩人Sさんと都内のジャズ喫茶で「言葉の温泉」という、自由参加型の詩の朗読会を催しました。きっかけは私が「皆さんの心が温まる朗読がしたい」と思ったことです。その想いをSさんに相談した時、彼は賛同してくれて、「詩の朗読による分かちあいの場を目指して末長く開催していこう」という話になりました。

 いざ当日、予定の時間になる頃には参加者が列を成しており、私とSさんを含めた18人の詩人による、分かちあいのひと時が幕を開けました。幾つもの古時計の音が聞こえる懐かしい空間の中、照明の当たる舞台に一人ずつ出ては、それぞれが近況を語り、自作の詩を朗読します。聴く者たちには歓びや哀しみが共有され、優しく織り成されていきました。

 特に印象に残ったのは、この「言葉の温泉」の記念すべき第1回目のゲストで、1カ月前に、ある悩みを私に打ち明けてくれたMさんです。彼は朗読を終える時、私のほうを見て、「ここには愛があった」と語り、思わず胸にこみ上げるものがありました。また、仙台市から早朝の高速バスで駆けつけてくれたDさんは、米寿を迎えて今もなお元気で暮らす祖母との想い出を描いた詩を朗読しました。舞台の脇に腰かけて聴いていると、私の心がじんわりと温かくなってゆくのを感じました。司会の私は、「朗読を聴いていると、私たちは物語の中にいるような感覚になっていきます」と述べました。

 イベント後、主宰する私とSさん、ゲストのMさんの3人で肩を組み、記念撮影をしました。翌日、ゆっくり写真を眺めていると、真ん中に収まるMさんの表情が輝いており、「言葉による温泉という場を共に作れてよかった......」と、心から思えたのでした。