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輝く

岡野 絵里子

今日の心の糧イメージ

 時間とは、気づかないうちに過ぎていくものである。年長の友人たちが徐々に、定年を迎える年齢になってきている。

 同じ時期に定年を迎えた友人が二人いるが、実際に仕事を辞めるまでの態度にはずいぶん違いがあった。一人は出勤しない毎日が想像できないと言い、「二日酔いで苦しくても、机に座るとシャキッとして仕事ができちゃうんだよね。その机がなくなるなんて・・」と、かなり不安そうだった。もう一人は丸一日を自由に使えるんだ、と目を輝かせて喜び、「まず図書館に通って、午前中は短歌を研究、午後は・・」と、計画を聞かせてくれ、身軽になるのを楽しみにしているようだった。

 仕事が生きがいだった人は、生きがいを失うのを恐れ、仕事が重荷だった人は、重荷から自由になるのを楽しみにしていたということだろう。

 結局定年後、前者は、詩人団体の役員など重要な仕事をいろいろ任されて、勤めていた頃に劣らず忙しく、後者は、詩の啓蒙活動や講演もして独自の活動を楽しんでいる。それぞれの性格に合った時間の過ごし方になったようだ。

 人生の時間は飛ぶ矢のように過ぎて行くが、その飛び方は一人一人異なっている。人によって時間の使い方が違うからだ。生活を支えた仕事を終え、さらに豊かに与えられた時間を自分のために使えるのは幸福だと思う。私の友人のように、楽しみにわくわくするだろう。そして誰かのためにも使えたら、さらに幸せと生きがいを感じるだろう。

 生命はみな、光を発する存在だと聞いたことがある。人間のように他者のために生きることができる命は、どれほど輝いていることだろう。輝く光の矢の軌跡が、地上を明るくして行く。