30数年前、五島の母が入院したので見舞いに帰った。
母はふたり部屋にいた。
同室のお婆さんはとても小柄で、ベッドに座って静かに祈りを捧げていた。
横からそっと見るとロザリオを繰っていた。
母と同じカトリックの人だとわかり嬉しい気持ちになった。
しばらく母と語らい、おばあさんを見ると、祈り終わっているようなので、声をかけさせていただいた。
そのおばあさんが振り返った時、そのお顔を見て、私はなんともいえない感動に包まれた。
顔はしわが多く、確かにおばあさんなのに顔全体の印象が全くのけがれを知らない童女のようであった。
なぜか、そのおばあさんの周りが一瞬、光り輝いて見えた。
「天使は歳をとらない」と教会学校で習ったはずなのに、私の目の前におばあさんの天使がいたのだった。
私はますます嬉しくなり、「母のこと、よろしくお願いします」と声をかけた。すると、そのおばあさんはにっこりと微笑んで「こちらこそ」と答えてくれた。
無口な人のようだったので、それ以上のお声かけは遠慮した。
数日してそのおばあさんは退院した。
後日、その病院で働く、従妹のシスターが母におばあさんのことを教えてくれた。
母が言うには「あん人はさ、神父さまのお母さまっちよ。ああ、なるほどっち思うたとよ。神々しかったもんの。あんまりしゃべらん人じゃったばってん、何かしら神さまの光ば感じたとよ」。
親子でおばあさんの天使に出会った思い出を書くことができる私はとても幸福である。