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輝く

古橋 昌尚

今日の心の糧イメージ

 聖書では、「神の栄光」、その輝きを表すときに、よく太陽の譬えがもちだされます。私たちの人生もそのいくらかを反映した輝きを放てればいいのですが、なかなかそれも叶いません。それでも、いつか月のように光を放てれば、それも悪くないと思います。

 神谷美恵子さんはその半生をハンセン病患者さんたちによりそった精神科医です。生涯をふりかえって、自分の「一生はただ恵みを受けるための器であった」と記します。その人生にふれて人々は美恵子を讃えますが、本人は恵みを受けるだけの器だったというのです。その恵みは圧倒的で、自分の器では収めきれずに、自然とあふれ出ていくのだと。天からの視点を意識した人はこうした自分の何たるかを自覚していて、驚かされます。

 多くの人々に希望と生きる勇気を与えた人は、実に柔和で優しく、周りの人からみても慎ましやかな微笑みをたたえて輝いていたようです。燦燦と輝くというのではなく、むしろおだやかで賢明なる情熱のうちに、ひそかに光を放っていた人でした。

 美恵子はスイスに住んだり米国で学んだりと恵まれた環境で育ちますが、他方で幼い頃から生きにくさに戸惑いを覚えます。本人は、周りの人がなぜこんなに簡単に生きているのかが不思議でなりませんでした。なによりも、他の人の苦しみや悲しみにとても敏感な人でした。ハンセン病の方々に出会って、「なぜ自分が健康なのか」と問い直します。十代の頃の運命的な一瞬の出会いが美恵子の人生を決定づけることになりました。

 彼女の詩の一部「私はただのうつわ、いつもうけるだけ。」この人間の謙虚な輝きに、神様もきっと心をとめられることでしょう。