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聞き上手なアナウンサー

遠藤 周作

今日の心の糧イメージ

 私は、会社勤めではないので、自分で処理できる時間がたっぷりある為に、テレビを他の人よりもたくさん見る人間だと思います。

 大体、朝の食事をしながら各局のモーニングショーを見て、それからお昼はお笑いを見て、夜の7時半以降は、ほとんどテレビの前に釘付けになっている週が多いようなもんです。テレビのお陰で、いろんな楽しみをすることができましたし、まだ行っていないところの風景を見ることができました。

 朝のモーニングショーを見て、つくづく感心するのはベテランのアナウンサーの応対ぶりです。特に各界の人を呼んで、ベテランのアナウンサー達がインタビューする場面があります。若いアナウンサーだとどうしても気張ります。自分の主張したいことを相手に言わせようとして、体が前の方に出てくる感じです。あるいはいかにも誘導していることが視聴者に解るようなことがあります。

 しかしベテランのアナウンサーはそういうような自分の気持ちを露骨に見せつけずに、巧みに相槌を打ちながら水が低きに流れるように、相手の話を自分の田に流し込んでゆくそのコツが何とも言えず上手い。私は朝「あゝ、こういう言い方をするのか」「こういうふうな誘い方で、相手の話題を誘い出すのか」とつくづく感心します。

 この前、口下手な人間は聞き上手になれ、ともうしました。その聞き上手の典型というのが、こういうアナウンサーなので、どういう風にすれば、聞き上手になれるかということが、彼らから学ぶことができるのです。

 私はおしゃべりな為に、あまり聞き上手ではありません。従って、彼らからこの聞き上手を学ぼうと思って、朝御飯を食べながら食い入るような目で毎日テレビを見ています。

 (書き下ろし元原稿のまま)