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ゆるし

林 尚志 神父

今日の心の糧イメージ

 約75年も昔の話です。戦後、焼け跡世代の私が中学1年生の時でした。

 疎開から帰ると家が無く、遠距離通学のため朝5時52分発の電車で、朝飯は食べるか食べても僅かだったのです。

 其の日学校に着くと空腹に耐えられず、薩摩芋か何かの昼弁当を食べてしまいました。2時間目、休憩時間に皆が教室から出た時、右3列前の机にある弁当が目に入りました。そして咄嗟にその弁当を開いて全部食べてしまったのです。

 昼に成りその生徒は泣き出し・・、何が起こったか憶えていません。先生が来てどの様に叱られ、級友の悲しみと怒りにどう謝ったかも記憶にありません。罰として教室に立たされました。素直に職員室に謝りに行けず、下校時間が来て皆帰りましたが、立たされたままでした。薄暗くなりだしたころ一緒に遊ぶ友達5人がやってきました。アヤさん、天才、エレファン、ブーちゃん、タピオカというあだ名の5人でした。「おい、もう帰ろう!」と促すのです。「先生がゆるさないから帰れない」と言うと、「おれ達、代わりに謝りに行ってきた。ゆるすから帰っていいと。帰る前にちょっと職員室に顔を出せって」。

 私は少し恐る恐る職員室に行きました。先生は「おう、来たか。さっきお前の友達謝りに来たぞ。そこの紙の束、あそこに運んでから帰っていいぞ」とだけ言われました。

 何を思ったか憶えていません。何も無かったかのように、アヤさん、天才、エレファン、ブーちゃん、タピオカの5人と愉快に夕暮れの道を帰りました。

 友達があやまってゆるしてもらった。友達があやまったのでゆるした。ゆるすという事を聞くとこの昔の事をいつも思い出すのです。

 その5人の内一人が病苦の中にいて、でも未だメールでやり取りしています。