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ゆるし

堀 妙子

今日の心の糧イメージ

 ゆるしがたいという思いは消えたと思っても、ずっと心のなかにひそんでいることがある。ゆるした、ゆるされたと思いつつも、さっと暗い影が心をふさぐ。

 そんな思いでモヤモヤしていたある日、教会の友人がイタリア巡礼に行き、ロザリオをおみやげに買ってきてくれた。

 ロザリオとは、主イエスの生涯を聖母にバラの花冠を編むように祈っていく伝統的なものだ。

 私が今まで使っていたロザリオは最初に十字架に釘付けられたイエスから始まるのだが、このロザリオはイエスだけではなかった。十字架上のイエスの前に、イエスの母マリアと、イエスがもっとも愛したと言われる弟子、使徒ヨハネがハグをしていて、「これからよろしく」と言っているようなレリーフがついていた。

 イエスは母マリアに向かってヨハネを「あなたの子です」と言い、ヨハネに向かって母マリアを「あなたの母です」と言って死去される。(参 ヨハネ19・26~27)

 この言葉は、新しい家族、新しい共同体、新しい旅が始まる予感がする。イエスは、弟子に裏切られ、祭司長たちや律法学者たちの計略などによって、民衆がこぞって死刑囚バラバを釈放し、罪のないイエスを十字架につけろと叫び出した。遂にイエスは二人の盗賊とともに、十字架刑に処される。

 十字架の前に立つ母マリアにとってはこれ以上の悲しみはない。使徒ヨハネにしてもこれから先、どう生きていったらよいのか途方に暮れたであろう。

 イエスは新しい道を用意されたのだ。私も、あの人をゆるせない、こんなはずじゃあ...などとぶつぶつ文句を言っている場合ではない。十字架のもとから、母マリア、使徒ヨハネのように、愛にいたる旅に出かけよう。